KANTO Industrial College

自動車整備士のイメージは? 職業認知度や魅力、課題を探るアンケート結果を詳しく解説

近年、自動車産業は電気自動車(EV)や自動運転技術など大きな変化の波にさらされています。そうした中で、クルマを安全かつ快適に走らせるための要となるのが“自動車整備士”の存在です。自動車整備士は、車の故障修理や定期点検、部品交換、さらには最新のコンピューター診断機器を活用した整備など、多岐にわたる業務を担っています。
しかし、世間一般には「自動車整備士の仕事」というものがどの程度理解されているのでしょうか。また、若年層を中心に働き手の不足が課題となる中、自動車整備士という職業はどのように見られているのでしょうか。こうした疑問を明らかにするため、114名を対象としたアンケート調査を実施しました。本稿では、その結果を詳しく見ながら、自動車整備士の職業イメージや魅力、そして今後の課題と取り組みの方向性について考察していきたいと思います。

自動車整備士の認知度について

まず、自動車整備士という肩書きの認知度を尋ねたところ、「よく知っている」が約27.2%、「なんとなく聞いたことがある」が約69.3%、「知らない」が約3.5%という結果でした。多くの人が職業名は知っているものの、具体的に理解している層は3割弱にすぎません。これは、自動車が生活に密着しているにもかかわらず、整備の裏側や整備士の専門性を垣間見る機会があまりないことを意味しています。
オイル交換やタイヤ交換といった作業はイメージしやすいものの、実際には車両全体の安全点検や故障診断、さらにはブレーキやエンジンなど重要部位の調整など、多岐にわたる業務をこなすのが自動車整備士の役割です。しかし、「職場が油まみれになりそう」「力仕事が大変そう」といったイメージが強く、専門知識や技能がどのように活かされているかまでは十分に伝わっていないことがうかがえます。

自動車整備士の仕事内容について

次に、自動車整備士の実際の業務内容への理解度を調べたところ、「詳しく知っている」は4~5%程度で、「なんとなく知っている」が6割超、「あまり知らない」が3割近くに上りました。多くの人にとって、整備士の仕事は車体の下に潜り込み、部品を交換するイメージにとどまっているようです。
しかし現在の自動車は、コンピューター制御や電装系の技術が飛躍的に発展しています。エンジン制御ユニット(ECU)のプログラム診断や電子系統の不具合チェック、センサーの交換・調整など、実際には高度な専門知識と柔軟な対応力を要する場面が増えました。一方で、こうした先端技術への対応力が必要とされるにもかかわらず、その実情が広く知られているとは言えません。結果として、整備士の将来性や重要性に関する正しい理解が十分に進まず、「なんとなく大変そう」「汚れる仕事」というイメージが先行してしまうのです。
こうした現状を考えると、単に作業イメージだけではなく、整備士が担う多面的な役割やスキルアップの可能性、さらには安全を支える要としての意義をわかりやすく発信していくことが必要だと考えられます。例えば、近年は電気自動車(EV)やハイブリッド車などが普及し、一般的なエンジン整備だけでなく、高電圧バッテリーやモーター制御システムにも精通する必要が出てきました。こうした分野に対応できる人材はまだ限られており、まさに高度なエンジニアとしての活躍が期待されているのです。 ​

整備士の仕事に対するイメージ

この設問では自動車整備士に対する印象を複数回答で尋ねました。その結果、最も多く挙げられたのは「車好きには魅力的な仕事」で64%、次いで「手に職がつく」(56.1%)という肯定的なイメージが上位を占めました。車に興味を持つ人々から見れば、自分の好きな分野で働ける点や、専門技術を身につけられることが大きな魅力と映っているようです。
一方で、「体力的にきつそう」(52.6%)や「仕事が汚れるイメージがある」(43.9%)など、肉体的負担の大きさや作業現場の環境に対するネガティブな印象も少なくありませんでした。実際、車体の下部を点検したり重量物を持ち上げたりする場面は多く、油汚れなどとも無縁ではいられないため、こうした回答は現場の実態をある程度反映しているといえます。
また、「収入が安定している」という回答は16.7%にとどまり、少数派となりました。さらに、「将来性が不安」と考える人も7%程度存在し、働き口自体は多いという認識がありながらも、業界の変化や給与水準への不安感が一定数の人々の心に残っているようです。こうした背景には、EV化や自動運転技術の台頭など自動車産業を取り巻く急激な変化があり、整備士がこれからどのような形で技術革新に対応していくのかが未知数に映っている可能性も考えられます。

整備士への興味の有無と、その背景

次に、自動車整備士を“自らの進路”や“就職先”として意識した経験があるかどうかを尋ねると、「ある」は18.4%にとどまり、およそ8割強の人が「ない」と回答しました。前項までで挙がったように、車に対して強い関心を持つ層からは一定の魅力が認められる一方、実際に職業として検討するまでには至っていない人が多数派であると言えます。
この背景には、「仕事の詳細がよく分からない」「厳しそうな職場環境」「将来性への疑問」などが影響していると推察されます。逆に言えば、給与や待遇面の充実、技術革新に応じたキャリア形成の道筋などが明確になれば、興味を抱く人が増える可能性は充分にあるのではないでしょうか。こうした認識を踏まえて、自動車整備の魅力や具体的な働き方をどのように発信し、誤解や不安を払拭していくかが今後の課題となりそうです。

整備士への興味・関心を高めるために必要な情報・取り組み

この設問では、自動車整備士という職業への関心を高めるために、どんな情報が求められているのかを尋ねました。その結果、最も多かったのは「給与や待遇の詳細」(35.1%)で、およそ3割を超える回答者が“具体的な収入面の情報”を挙げています。これは、現実的な将来設計を描くうえで、どのような働き方をすればどの程度の収入に結びつくのか、転職やキャリアアップのルートはどうなっているのか、といった点が明確にならないと興味を持ちにくい、という人が多いことを示唆しています。
続いて「実際に働いている人の体験談」(21.9%)も重要視されました。これは、整備士の現場の“生の声”を知る機会が少ない状況が背景にあると考えられます。具体的な修理手順やトラブル対応の様子、作業の醍醐味や苦労などを直接聞ける機会は多くはありません。リアルな声を通じて仕事の本質的な魅力や課題が見えてくることで、就職を検討する人にとっては大きな後押しとなるでしょう。
また、「仕事内容の詳しい説明」(15.8%)や「業界の将来性」(15.8%)、「資格や必要なスキルの情報」(11.4%)も回答として一定数が挙げられました。特にEVやハイブリッド車など新たな技術が進む中で、どのようなスキルが求められるのか、資格取得の難易度はどれほどなのか、といった点への疑問が多いと言えます。結局のところ、職業としての全体像が見えにくいことが、興味を持たれにくい原因の一つになっているのです。

自動車整備士の仕事の魅力を向上させるために必要な取り組み

次に、“仕事そのものの魅力を高める”には何が重要かを尋ねました。その結果、「給与や待遇の向上」が51.8%と過半数を占めました。自動車整備士は高い専門性と体力を要し、常に安全を守るという責任も負う仕事ですが、その割に賃金水準が高くないという認識が一部にあるのかもしれません。
「若者向けの職業PR活動」(24.6%)や「労働時間や休日の見直し」(17.5%)も比較的多くの票を集めています。若年層の就業率や意欲を高めるためには、今の学生や社会人が興味を持ちそうな動画やSNSなど、デジタルメディアを活用したアプローチが効果的でしょう。また、整備士には繁忙期や緊急対応が付きものとはいえ、過度の残業が常態化するようでは、職業イメージの改善にはつながりにくい側面があります。労働環境を整え、働きやすさをアピールすることも大切なポイントです。
さらに、「教育や研修制度の強化」(およそ6%前後)といった回答も一部見られました。業務が高度化する中で、整備士を目指す人が着実にスキルを身につけられる研修体制が整っているかどうかは、大きなモチベーションの源となります。安全性と確かな技術が求められる現場だからこそ、研修や資格取得支援といった“学びの場”を充実させることで、より多くの人が専門職としての成長を実感できるようにすることが望まれます。

自動車整備士の職業イメージ向上に有効なPR方法

最後に、自動車整備士の職業イメージをより良くするために有効だと思うPR施策を複数回答で尋ねた結果、最も多かったのは「SNSやYouTubeでの発信」(64.9%)でした。写真や動画を通じて整備の現場や作業のダイナミックさを目にできることは大きなインパクトがあり、特に若い世代に向けてはSNSなどのデジタルメディアが最適な情報発信の場であると言えます。
次いで、「給与や待遇の向上」(50.9%)を挙げる声も目立ちました。これはPR施策というよりも、業界としての課題解決そのものを望む声と解釈できますが、実際の処遇改善が進めばポジティブな情報発信との相乗効果が期待できるでしょう。また、「学校での職業説明会や体験イベント」(44.7%)も多く支持されており、直接的な体験や現場見学を通じて仕事の魅力を伝えることが効果的だと考えられています。
一方、「整備士の仕事を題材にしたドラマや番組」(41.2%)を挙げる人も少なくなく、フィクションやドキュメンタリーの形で整備士の活躍が描かれれば、大衆の関心を大きく集める可能性があります。さらに、「労働時間や休日の見直し」(32.5%)に言及する人たちは、厳しいイメージを払拭するためにも、実際の働き方の改善とそのアピールが必要だと考えているようです。このほか、「有名人やインフルエンサーによる発信」(19.3%)、「教育や研修制度の強化」(16.7%)なども挙げられ、幅広いアプローチでイメージアップを図る必要性が示唆されました。

まとめ

今回のアンケート結果からは、自動車整備士が「車好きには魅力的」「手に職がつく」と評価される一方で、「体力的にきつそう」「汚れる仕事」「将来性が不安」といった懸念も根強いことが浮き彫りになりました。実際はEVや電子制御など高度な技術が必要で、今後のニーズは高まると考えられます。しかし、給与や待遇の向上、SNSなどでの情報発信、教育・研修制度の充実が求められており、こうした課題を業界全体で改善していくことが、自動車整備士の魅力向上と若い人材確保につながるでしょう。