自動車整備士として徐々にキャリアを積んでいくとして、最終的な目標はなんでしょうか。
最終目標は検査員であったり、1級整備士資格に基づくコンサルティングであったり、あるいは転職して損害保険のディストリビューターであったりするでしょうか。
ですが、人に雇われて働く以外の選択肢もあります。
自分自身で整備工場を開業し、経営してみたい、そう思う人もきっといるでしょう。
自動車整備士が、整備工場を開業することについて見てみます。
「整備士の最後を経営者として終えよう」と思うのはまったく自由です。
考えるべきことが次のように、驚くほどたくさんあるのでまずそちらから押さえておきましょう。
・開業資金、融資
・設備投資
・日々の資金繰り
・営業活動・PR活動
・代金の回収
・工場の敷地・建物の借入れや購入
・公的助成金・補助金
・社会保険の加入
・税理士
・雇用
このうち一部を見てみます。
自動車整備士としてのキャリアアップは、好きなこと、得意なことを活かしていくものです。
もちろん単にクルマをいじっていればいいというだけのものではありません。上司として人を使うなど、次々と求められるスキルが変わってきますが、そういった要素も乗り越えられたとします。
その先、 自分が経営者の立場になるとすると、今度は他人に対して、社会に対して大きな責任が生まれます。それはきちんと認識しておくことが必要です。
経営者だからと言って、稼いだお金がすべて懐に入るわけではありません。
顧客が払ってくれたお金から、従業員の給料も、賃料も捻出しなければなりません。
税理士や銀行との付き合いなど、他方面に気を配る必要があります。
そして、雇い入れた整備士の人生にも責任を負います。
大変な道ではありますが、それでも一国一城の主になりたいと思うなら、整備工場を開いてみる人生、やりがいがあるでしょう。
サラリーマンとして整備士を続けながら、お金を貯めておくことは必須です。
融資を受ける際には経営者個人の保証も必要になります。これは一生続きます。
それから、整備工場で勤務しながら経営者の働きぶりはきちんと見ておきましょう。現場で汗を流すだけが経営者の仕事ではなく、従業員には見えないお付き合いのうち、ビジネスに重要なものも多数あるわけです。
なお本気で開業する意思があれば、早めにそのことは経営者に話しておいたほうがいいことが多いものです。
将来のライバルとでも、同時に助け合う関係にもなります。敵対するより、仲間にしておきたいと思ってもらったほうがいいのはもちろんです。
予定通り開業資金が貯まっていくとは限りませんが、少ない資金でも開業することができないわけではありません。
政策金融公庫など低利で融資してくれる可能性があります。もっとも、将来性があるからこそ融資を受けられるのであり、開業後の計画が具体的でないといけません。
また各種助成金や補助金も活用しましょう。多くの助成金は、開業して人を新規に雇い入れることで条件を満たします。
ところで、人に使われるということは、それもまた効率的な生き方ではあります。
開業してみてこんなはずではなかったと思う前に、自分の人生、どう設計したいかも考えておきましょう。
仕事の波があっても、一定の給料が入ってくるので安心です。また、社会保険や福利厚生といったメリットも大です。
「人にこれ以上使われるのが嫌だ」というレベルで開業を考えているのなら、考え直したほうが懸命でしょう。経営者になっても別の苦労は途絶えません。
それでも生活の安定よりも経営がしたいという意思が明確なら、ぜひチャレンジしてみましょう。
ただし雇った人の安定は極めて重要、それもまた 理解しておかなければなりません。
整備工場を開業するために必要なプロセスや資格を見てみましょう。
ちなみに、どんな商売でも重要な、仕事場の確保の問題もあります。さらに建築基準法によって整備工場が開業できない地域(住宅地域等)もあるので気をつけないといけません。
整備工場では、車両の分解整備を行うのが基本的な業務です。そのためには「認証工場」または「指定工場」である必要があります。
認証工場または指定工場の指定を与えるのは国であり、整備工場を開業する前に国の認証または指定を受けなければなりません。
認証、指定の違いは次のとおりです。
・認証工場・・・車検については陸運支局に持ち込む必要がある
・指定工場・・・車検を自社工場で完結できる
当然ながら指定工場のほうが、規模が大きくなります。
整備士の必要な人数も変わってきます。次の通りです。
・整備実務を担当する整備士(認証工場2名以上、指定工場5名以上)
・認証工場の場合、検査主任者と整備工員1人(最低1人は整備主任者であること)
認証工場または指定工場の認定申請は、地方運輸局長に行います。
さらにASV車(先進安全自動車)の整備をもし受けるなら、特定整備の認証も受けなければなりません。 申請を自分でするのが大変なら、行政書士に依頼する必要があります。
「整備の仕事をつづけながら、経営もする」と漠然と考えている人もいるでしょう。
事実、整備士として現役の社長という人も多くいます。クルマが好きで整備士になったのなら、なおさら現役で居続けたいはずです。
ただ、現場の仕事を「自分で全部やるつもり」では立派な経営者とは言えません。
もちろん休みを取りたい従業員もいる以上、経営者が現場に出ることも求められます。ですが、いつもそうしていたら発展はありません。
経営者の最も重要な仕事は、自分が不在でも現場が回るようにシステムを整えることです。
クルマへのかかわりについては、自己満足ではなくもっと広い視野を持ちましょう。
ちなみに整備士業界は人手不足が続いています。
働く側からすると売り手市場ですが、経営者には大変な時代です。外国人雇用も考えないとなりません。
しかしそんな時代だからこそ、従業員が定着する職場づくりを心掛けていきましょう。
商売のスタイルも、どんどん変わっていきます。
好き嫌いは別にして、どんなビジネスも時代に合わせていかなければなりません。
整備工場というと、どうしても油と塗料にまみれた職場に映るものです。ですが、イメージも変えていく必要があります。
これから強く求められるのは、コンサルタントとしての整備士です。顧客の要望をよく聞き、最適なアドバイスをしていくことが求められます。
女性ドライバーが増えた中では、女性が訪問しやすい工場を作ることも求められます。
他にも、世間の動向をよく見ていく必要があります。
たとえば世間でキャッシュレス決済が流行っている中で、現金でないと整備の代金が支払えないというのはいただけません。
キャッシュレスを導入すると手数料を支払う必要があると、古い産業では敬遠する向きもあります。
ですが、考え方次第です。顧客からの代金回収に時間を取られるぐらいなら、手数料などごく安いものです。
QRコード決済などは経営者のキャッシュフローについても考えてくれています。
こうした部分から改めていかないといけません。
どんな商売でも経営は大変ですが、ビジネスとしてはやりがいがあります。
整備工場を経営したいなら、若いうちから将来設計をして、着実にステップアップしていきたいですね。