KANTO Industrial College

車一台作るのにかかる時間はどれくらい?製造工程を解説

普段何気なく乗っている車が、一台完成するまでにどれくらいの時間がかかるかご存知ですか?結論から言うと、一台の車が工場でラインオフするまでの時間は、およそ17時間から30時間です。この記事では、プレスから検査までの5つの主要な製造工程を追いながら、その時間の内訳を詳しく解説します。さらに、軽自動車や高級車、電気自動車(EV)による製造時間の違い、そして多くの人が気になる「納車期間」との関係まで、あなたの疑問にすべてお答えします。

結論 車一台作るのにかかる時間は約17時間から30時間

私たちが街で見かける一台の車。その車が工場の製造ラインでゼロから完成するまでにかかる時間は、一般的におよそ17時間から30時間と言われています。これは、一枚の鉄の板がプレスされ、ボディの形になってから、塗装、部品の組付け、そして最終検査を経て、自走可能な完成車としてラインオフするまでの合計時間です。

ただし、この時間はあくまで一台の車が製造ライン上を流れながら、各工程で作業を受ける実質的な時間の目安です。最新鋭の設備を持つ工場では、効率化が極限まで進められており、20時間を切るケースも珍しくありません。一方で、職人の手作業が多く含まれる高級車や特殊なモデルでは、30時間を超えることもあります。

この製造時間を理解する上で重要なのが「タクトタイム」という考え方です。タクトタイムとは、製造ラインで一台の車を生産するために与えられた時間(サイクルタイム)のことで、例えば「60秒に1台」といったペースで車が完成していくことを意味します。工場全体では、このタクトタイムに基づいて数千、数万点の部品が供給され、ロボットや作業員が絶え間なく動き続けているのです。

ここで最も注意すべき点は、この「製造時間」と、私たちが車を注文してから手元に届くまでの「納期」は全くの別物であるということです。納期には、受注後の生産計画への組み込み、部品メーカーからの部品調達、完成後の輸送や販売店での手続きなど、製造以外の多くの時間も含まれます。そのため、製造時間そのものは数十時間でも、実際の納期は数週間から数ヶ月、人気車種では1年以上かかる場合もあるのです。

車一台作るのにかかる時間の内訳 5つの主要製造工程

自動車の製造は、巨大な工場で数多くの工程を経て行われます。ここでは、車一台が完成するまでに行われる代表的な5つの製造工程と、それぞれにかかる時間の目安を解説します。これらの工程が連携することで、わずか十数時間で一台の車が生み出されるのです。

プレス工程 1枚の鋼板からボディを成形

プレス工程は、巨大なロール状に巻かれた鋼板(スチールコイル)から、車のボディを構成するパーツを作り出す最初のステップです。まず、鋼板は必要な大きさに切断され、その後、数千トンの圧力をかけることができる巨大なプレス機に送られます。そこでは「金型」と呼ばれる車のパーツの形をした型が使われ、強い力で鋼板を打ち抜いたり、曲げたりして、ルーフ、ドア、フェンダーといった立体的なパネル部品が次々と成形されます。この工程は非常に高速で、1枚のパネルを成形するのにかかる時間はわずか数秒です。車のデザインの基礎となる、滑らかな曲面やシャープなラインがここで生み出されます。

溶接工程 ロボットアームが火花を散らす骨格作り

溶接工程では、プレス工程で作られた数百点ものパネル部品を繋ぎ合わせ、車の骨格である「ホワイトボディ」を組み立てます。工場のラインでは、多数の産業用ロボットアームが火花を散らしながら、正確かつ高速に溶接作業を進めていきます。主な溶接方法は「スポット溶接」と呼ばれ、数千もの点を瞬時に溶接することで、パネル同士を強固に結合させます。この工程のほとんどは自動化されており、車の安全性と剛性を決定づける最も重要な工程の一つです。一台のホワイトボディが完成するまでには数時間を要し、寸分の狂いもない精密な骨格がここで完成します。

塗装工程 美観と耐久性を決める何層もの塗り重ね

塗装工程は、車の美観を決定づけるだけでなく、ボディを錆や傷、紫外線から守るための重要な役割を担います。この工程は、全製造工程の中で特に時間がかかる部分です。まず、ホワイトボディを丸ごと塗料のプールに浸して、錆止めのための「電着塗装(下塗り)」を行います。その後、石はねなどからボディを保護する「中塗り」、そしてボディカラーを発色させる「上塗り(ベースコート)」、最後に艶を出して塗装面を保護する「クリアコート」と、何層にもわたって塗料が塗り重ねられ、その都度、高温の乾燥炉で焼き付けられます。この乾燥に時間がかかるため、塗装工程全体では10時間近くを要することもあります。

組立工程 エンジンや内装など3万点の部品を取り付け

組立工程は、塗装済みのボディに約3万点にも及ぶ部品を取り付けていく、まさに車に命を吹き込む工程です。ベルトコンベアでゆっくりと流れるボディに、エンジンやトランスミッション、サスペンションといった走行に関わる重要部品から、ダッシュボード、シート、カーナビなどの内装品、そしてワイヤーハーネスと呼ばれる複雑な配線まで、作業員やロボットが連携して次々と組み付けていきます。多種多様な部品を、決められた順序で効率よく、かつ正確に取り付けるため、作業は高度にシステム化されています。このダイナミックなライン作業を経て、車はついに完成形へと近づいていきます。

検査工程 厳しい品質基準をクリアするための最終チェック

最後に待っているのが、完成した車がメーカー独自の厳しい品質基準と国の保安基準を満たしているかを確認する検査工程です。ここでは、専門の検査員が五感を使い、ボディの塗装にムラや傷がないか、各パーツの取り付けに隙間やズレがないかといった外観チェックを入念に行います。さらに、ライトやウインカー、ブレーキといった全ての機能が正常に作動するか、専用のシャワーテストで雨漏りがないか、そして実際にテストコースを走行して乗り心地や異音の有無を確認するなど、数百項目にもわたる厳格なチェックが行われます。この最終関門をクリアした車だけが、お客様の元へ届けられるのです。

車種によって車一台作るのにかかる時間は違うのか

前述した約17時間から30時間という製造時間は、あくまで一般的な乗用車の一例です。実際には、車の種類や価格帯によって、一台あたりにかかる時間は大きく異なります。ここでは、車種ごとの製造時間の違いとその理由について詳しく解説します。

軽自動車やコンパクトカーの場合

スズキの「スペーシア」やトヨタの「ヤリス」に代表される軽自動車やコンパクトカーは、一般的な乗用車に比べて製造時間が短い傾向にあります。その最大の理由は、生産効率を極限まで高めた設計と製造ラインにあります。これらの車種は、使用する部品点数が比較的少なく、ボディサイズも小さいため、プレスや溶接、塗装といった各工程での作業時間や手間を抑えることが可能です。また、国内市場で非常に人気が高く、大量生産を前提としているため、生産ラインは徹底的に自動化・最適化されています。1分1台といった驚異的なスピードで次々と完成車がラインオフする工場もあり、コストを抑えながら高い品質を維持するための工夫が随所に凝らされているのです。

高級車や特殊車両の場合

一方で、レクサスの「LS」やトヨタの「センチュリー」といった高級車、あるいは救急車や消防車などの特殊車両は、製造に非常に長い時間がかかります。高級車の場合、熟練した職人による手作業の工程が格段に多くなるためです。例えば、何層にも塗り重ねられ、丹念に磨き上げられる塗装や、天然木や本革を寸分の狂いなく組み合わせる内装の組み立てなど、機械では再現できない「匠の技」が求められます。使用される部品点数も膨大で、一台一台に対する品質検査も極めて厳格に行われるため、製造時間は一般的な車の数倍から数十倍に及ぶことも珍しくありません。また、特殊車両は、ベースとなる車両が完成した後に、用途に応じた特別な装備を取り付ける「架装」という工程が必要となり、オーダーメイドに近い形で生産されるため、さらに多くの時間を要します。

電気自動車(EV)の製造時間の特徴

日産の「サクラ」やテスラの「モデル3」など、普及が進む電気自動車(EV)の製造時間は、ガソリン車と比較して独特の特徴があります。EVは、エンジンやトランスミッション、排気系といった複雑な機構がなく、部品点数がガソリン車に比べて3割から4割少ないと言われています。これにより、組立工程がシンプルになり、製造時間を短縮できる可能性があります。しかし、その一方でEVの心臓部である大容量バッテリーの製造、搭載、そして厳格な安全性検査には多くの時間が必要です。現状では、部品点数の少なさによる時間短縮効果と、バッテリー関連工程にかかる時間が相殺され、一概にガソリン車より製造時間が短いとは言えません。ただし、テスラが導入した「ギガプレス」のように、巨大なアルミ部品を一体成型する技術革新も進んでおり、将来的にはEVの製造時間が劇的に短縮されると期待されています。

製造時間と納車時間は別物 注文から手元に届くまで

車の製造自体にかかる時間は長くても30時間程度である一方、私たちがディーラーで新車を注文してから手元に届くまでには数ヶ月、場合によっては1年以上かかることも珍しくありません。この大きなギャップはなぜ生まれるのでしょうか。その理由は、一台の車を製造する「製造時間」と、注文を受けてから顧客に引き渡すまでの「納車時間(納期)」が全く異なる概念だからです。この章では、注文から納車までの具体的な流れと、納期が長引く複雑な要因について詳しく解説します。

注文から納車までの一般的な流れ

私たちが新車を注文してから納車されるまでには、工場での製造以外にも多くのステップが存在します。まず、ディーラーで交わされた注文契約は、自動車メーカーに送られます。メーカーは全国から集まった注文を元に生産計画を立て、どの工場でいつ生産するかを割り振ります。この生産計画に自分の注文が組み込まれるまでが、納期における最初の待機時間となります。その後、計画に沿って車両が製造され、完成後の厳しい検査をクリアすると工場から出荷。専用のキャリアカーや船で各地のディーラーへ輸送されます。ディーラーに到着後も、オプション部品の取り付けや登録手続き、最終的な点検(PDI:納車前点検)といった納車準備が行われ、すべての準備が整って初めて私たちの元へと届けられるのです。

なぜ納車に数ヶ月もかかるのか?納期が長引く主な要因

近年の新車の納期は、様々な要因が複雑に絡み合うことで長期化する傾向にあります。特に、特定の人気モデルに注文が殺到することや、世界的な部品供給網の混乱は、納期に深刻な影響を与えています。ここでは、納期がなぜ数ヶ月単位、時には年単位で長引いてしまうのか、その主な要因を掘り下げて見ていきましょう。

人気モデルへの注文集中

新型車や、モデルチェンジで大きな注目を集める車種(例えばトヨタのアルファードやスズキのジムニーなど)には、発売直後から注文が殺到します。メーカーの生産能力には限りがあるため、生産計画を大幅に上回る注文が入ると、数ヶ月から1年以上先の生産枠まで埋まってしまいます。これが「バックオーダー」と呼ばれる状態で、注文した順番を待つしかなく、結果として長い納期が発生する最も一般的な理由です。特に、性能やデザインが市場のニーズと合致したモデルでは、この傾向が顕著になります。

世界的な部品供給の遅れ(半導体不足など)

現代の自動車は、先進運転支援システム(ADAS)や電動化技術のために、数多くの半導体を使用しています。この半導体の世界的な供給不足は、自動車の生産ラインを停止させる直接的な原因となり、納期を大幅に遅らせる最大の要因の一つです。また、半導体だけでなく、特定の樹脂部品やワイヤーハーネス(電線)といった部品の供給が滞ることもあります。自動車は約3万点の部品から構成されており、サプライチェーン(部品供給網)のどこか一つでも問題が発生すれば、たとえ他の部品がすべて揃っていても車を完成させることはできず、生産全体が遅れてしまうのです。

メーカーオプションやボディカラーの選択

意外に思われるかもしれませんが、購入者が選択するメーカーオプションやボディカラーも納期に影響を与えます。例えば、特殊な塗装技術を要するボディカラーや、特定の工場でしか装着できないサンルーフなどのメーカーオプションを選択した場合、生産されるタイミングが限定されることがあります。メーカーは生産効率を高めるため、同じ仕様やカラーの車両をまとめて生産する「ロット生産」方式をとっており、自分の注文した仕様の生産ロットが回ってくるまで待つ必要があるためです。逆に、人気の標準カラーや標準装備に近い仕様を選ぶと、納期が比較的早まる傾向があります。

生産計画と工場の稼働状況

自動車メーカーは、需要予測に基づいて車種ごと、仕様ごとの緻密な生産計画を立てています。しかし、この計画は常に変動する可能性があります。例えば、工場の定期的なメンテナンス期間や、自然災害、感染症の拡大による一時的な稼働停止など、予期せぬ事態が発生すれば生産は遅れます。また、世界市場の動向に応じて、輸出向けの車両生産が優先されるなど、国内向けの生産台数が調整されることもあります。こうした生産計画の変更や工場の稼働状況が、個々の注文の納期に直接影響を与えることがあります。

最新の納期情報を確認する方法

変動しやすい納期について、正確な情報を得るためにはどうすればよいのでしょうか。最も確実な方法は、購入を検討している正規ディーラーの営業担当者に直接問い合わせることです。ディーラーはメーカーから共有される生産枠や出荷時期に関する最新情報を持っており、希望する車種やグレード、オプションに応じた具体的な納期目安を教えてくれます。また、多くの自動車メーカーは公式サイト上で、主要車種の「工場出荷時期の目処」を公開しています。これはあくまで目安ですが、大まかな状況を把握するのに役立ちます。契約後も、定期的に担当者へ進捗を確認することで、納車までの見通しを立てやすくなるでしょう。

大手メーカーの事例 トヨタ生産方式に見る効率化

車の製造時間を語る上で欠かせないのが、世界中のメーカーが手本とする「トヨタ生産方式(Toyota Production System, TPS)」です。この生産方式は、単に作業を速くするだけでなく、徹底的に「ムダ」を排除し、品質を確保しながら製造リードタイムを極限まで短縮することを目的とした哲学と仕組みの集合体です。約17時間という驚異的な製造時間を実現する背景には、このTPSに基づいた絶え間ない努力が存在します。ここでは、その効率化の秘密を解き明かします。

TPSの二本柱「ジャストインタイム」と「自働化」

トヨタ生産方式の根幹をなすのが「ジャストインタイム」と「自働化(ニンベンのついたジドウカ)」という二つの考え方です。これらは、車の製造ラインにおける時間と品質を最適化するための重要な柱として機能しています。一見すると相反するように見えるこの二つの概念が両立することで、高効率かつ高品質な生産が実現します。それぞれがどのように製造時間の短縮に貢献しているのか、具体的に見ていきましょう。

ジャストインタイム(JIT):必要なものを、必要な時に、必要なだけ

ジャストインタイムは、「後工程が、必要なものを、必要な時に、必要なだけ、前工程に取りに行く」という考え方です。これにより、部品の作りすぎや不要な在庫といった「ムダ」を徹底的に排除します。生産ラインでは「カンバン」と呼ばれる作業指示票を使い、後工程が消費した部品の情報を前工程に伝達。前工程はカンバンの指示に従って、消費された分だけを生産・供給します。この仕組みにより、ライン全体が市場の需要と連動して動くため、過剰な在庫を持つ必要がなくなり、在庫管理コストやスペースのムダが削減され、結果として生産リードタイムの大幅な短縮につながるのです。

自働化(ニンベンのついたジドウカ):異常があれば機械が止まる

トヨタが用いる「自働化」は、単に機械が自動で動く「自動化」とは一線を画します。これは「人の知恵が付加された自動化」を意味し、機械に品質を判断する機能を持たせる考え方です。生産ラインに設置されたセンサーが異常(部品の欠品、取り付けミスなど)を検知すると、機械は自動的に停止し、「アンドン」と呼ばれる表示灯で異常を知らせます。これにより、不良品が次の工程に流れるのを防ぎ、品質を工程内で作り込むことができます。不良品が発生してから後工程で発見・修正する手間や時間のムダがなくなり、結果的にライン全体の生産効率と品質が向上するのです。

徹底した「ムダ」の排除と「カイゼン」活動

トヨタ生産方式の神髄は、現場に潜むあらゆる「ムダ」を徹底的に排除し、それを継続的な「カイゼン」活動によって実現していく点にあります。製造時間の短縮は、この地道な活動の積み重ねによって達成されます。ムダを明確に定義し、現場の作業者一人ひとりが主役となって改善を進める文化が、トヨタの競争力の源泉となっています。ここでは、効率化を阻害する「ムダ」の正体と、それをなくすための「カイゼン」活動について解説します。

7つのムダ:生産現場に潜む非効率を特定

トヨタ生産方式では、付加価値を生まない全ての活動を「ムダ」と定義し、具体的に以下の7つに分類しています。「つくりすぎのムダ」「手待ちのムダ」「運搬のムダ」「加工そのもののムダ」「在庫のムダ」「動作のムダ」「不良をつくるムダ」です。例えば、必要以上に製品を作ってしまう「つくりすぎのムда」は、他のすべてのムダ(在庫、運搬など)を生み出す元凶とされています。現場では、これらのムダを常に意識し、一つひとつをなくしていくことで、作業の効率化と製造時間の短縮を図っています。

カイゼン:現場主導の継続的な改善活動

「カイゼン」は、現場の作業者が主体となり、日々の業務の中で問題点を見つけ、知恵を出し合って改善を続ける活動です。これはトップダウンの指示ではなく、ボトムアップで自発的に行われるのが特徴です。例えば、「工具の置き場所を10cm変えて動作のムダをなくす」「作業手順を見直して手待ちのムダをなくす」といった小さな改善を絶え間なく積み重ねていきます。この小さなカイゼンの積み重ねが、最終的には生産性の大幅な向上、品質の安定、そして製造時間の大幅な短縮という大きな成果につながるのです。

生産の「平準化」と「タクトタイム」

効率的な生産ラインを維持するためには、日々の生産計画そのものにも工夫が必要です。トヨタ生産方式では「平準化」という考え方で生産量の変動を抑え、「タクトタイム」という指標で生産のペースを管理します。これらは、特定の車種に需要が集中したり、逆に需要が落ち込んだりする市場の波に生産ラインが振り回されるのを防ぎ、安定的かつ効率的なモノづくりを実現するための重要な概念です。これらがどのように製造時間の最適化に寄与するのかを解説します。

平準化:需要の波をならし安定した生産を実現

「平準化」とは、生産する車種や量をできるだけ均一にならすことを指します。例えば、Aという車を100台、Bという車を50台生産する場合、Aをまとめて100台作った後にBを50台作るのではなく、「A, A, B, A, A, B…」というように、多種多様な車種を一台ずつ、あるいはごく小さなロットで流していきます。これにより、特定の部品だけが大量に必要になるといった事態を避け、後工程や部品を供給するサプライヤーの負荷を安定させることができます。結果として、サプライチェーン全体のムダが削減され、安定したペースでの生産が可能となり、効率化に繋がります。

タクトタイム:1台あたりの生産目標時間

「タクトタイム」とは、車を1台あたり何分何秒で製造しなければならないかを示す目標時間のことです。これは、1日の稼働時間と、市場で必要とされる生産台数から算出されます。例えば、1日の稼働時間が480分で、1日に240台の車を生産する必要がある場合、タクトタイムは「480分 ÷ 240台 = 2分/台」となります。生産ラインのすべての工程は、このタクトタイム内に作業が完了するように設計・カイゼンされます。タクトタイムは生産のペースを刻む指揮棒のような役割を果たし、ライン全体の流れを同期させ、手待ちや作りすぎのムダを防ぎ、効率的な生産を実現するための基本となる指標です。

まとめ

車一台が完成するまでには、約17時間から30時間という驚くほど短い時間がかかります。本記事で解説したように、一枚の鋼板がプレス、溶接、塗装、組立、検査という5つの主要工程を経て、わずか1日程度で一台の車として生まれ変わるのです。この時間は、各工程での高度な自動化と効率化の賜物と言えるでしょう。

もちろん、部品点数の少ない軽自動車と、手作業の工程が多い高級車では製造時間に差が生まれます。また、工場での「製造時間」と、注文してから手元に届くまでの「納車時間」は全く異なる点も重要なポイントです。社会情勢なども納車期間に影響を与えることを覚えておきましょう。

トヨタ生産方式に代表される絶え間ない改善活動は、今も世界中の工場で続いています。今後はAIやロボティクスの進化、そしてEV化の進展により、自動車の製造工程はさらに変革を遂げるでしょう。より高品質で環境にも配慮した車が、さらに効率的に生み出される未来は、もうすぐそこまで来ています。一台の車に込められた技術と人々の努力に、思いを馳せてみてはいかがでしょうか。