KANTO Industrial College

ガソリンの作り方をわかりやすく解説|原油からできるまでの精製工程

私たちが普段何気なく給油しているガソリンは、どのように作られているかご存知でしょうか。この記事では、ガソリンの原料である「原油」が、製油所で製品になるまでの5つの精製工程をわかりやすく解説します。原油を加熱して沸点の違いで分離するだけでなく、オクタン価を高めて品質を向上させる工程や、環境基準を満たすために不純物を取り除く工程など、複雑なプロセスを経てガソリンは作られます。ハイオクとレギュラーの作り方の違いについても触れており、読めばガソリンの知識が深まります。

ガソリンの原料は中東などから運ばれる原油

私たちが日常的に利用する自動車の燃料であるガソリン。その元をたどると、「原油」と呼ばれる黒くてドロドロとした液体に行き着きます。この原油は、日本国内ではほとんど採掘されず、その大半を海外からの輸入に頼っています。特に、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)といった中東地域が主要な供給源となっており、日本のエネルギー供給を支える上で極めて重要な役割を担っています。

はるか遠くの産油国から、巨大なタンカーによって数週間かけて運ばれてきた原油が、国内の製油所でさまざまな工程を経て、初めて私たちが知るガソリンへと生まれ変わるのです。この章では、ガソリン作りの第一歩である、原料の原油がどこで採れ、どのようにして日本まで運ばれてくるのかを詳しく解説します。

原油とは?「黒い金」とも呼ばれる化石燃料

原油は、専門的には「原油(Crude Oil)」と呼ばれ、地中深くに存在する化石燃料の一種です。その正体は、数億年前の動植物プランクトンなどの生物の死骸が、地中の高い圧力と熱によって長い年月をかけて分解・変質してできたものです。採掘されたままの状態では、黒褐色で粘り気のある液体であり、特有の匂いを発します。

このままでは燃料として使うことはできず、ガソリンや灯油、軽油といった様々な石油製品を取り出すための「精製」というプロセスが不可欠です。現代社会を動かすエネルギー源として、またプラスチック製品などの化学製品の原料として、非常に高い価値を持つことから「黒い金」とも呼ばれています。

日本の原油輸入先|9割以上を中東地域に依存

日本はエネルギー資源に乏しい国であり、国内で消費される原油の99%以上を海外からの輸入に依存しています。その中でも、輸入量全体の9割以上を占めるのが中東地域です。具体的には、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェート、カタールといった国々が主要な輸入相手国となっています。

なぜ中東への依存度が高いのかというと、世界の原油埋蔵量の約半分がこの地域に集中しており、大規模な油田から安定的に、かつ大量に原油を供給できるためです。日本のエネルギー安全保障は、この中東地域との良好な関係と、安定した海上輸送ルートの確保の上に成り立っていると言えます。

巨大タンカーで製油所へ|原油輸送の道のり

中東の港で積み込まれた原油は、「VLCC(Very Large Crude Carrier)」と呼ばれる巨大な石油タンカーによって日本まで運ばれます。その大きさは全長300メートルを超え、東京タワーを横にしたほどの長さに匹敵します。一度の航海で約30万キロリットル、ドラム缶にして150万本分もの原油を運ぶことが可能です。

ペルシャ湾からインド洋、マラッカ海峡を抜け、南シナ海を経由して日本の製油所に到着するまで、その航海には約3週間もの時間がかかります。こうして長い旅を終えた原油は、ようやくガソリンをはじめとする様々な石油製品へと生まれ変わるためのスタートラインに立つのです。

ガソリンの作り方を5つの精製工程で解説

私たちが日常的に利用しているガソリンは、ドロドロとした黒い液体の「原油」から作られます。原油をそのまま自動車の燃料として使うことはできません。製油所と呼ばれる大規模な工場で、非常に複雑で精密な工程を経て、初めて製品のガソリンとして生まれ変わります。ここでは、その製造プロセスを5つの主要な精製工程に分けて、わかりやすく解説します。

工程1 原油を加熱し蒸気にする

製油所にタンカーで運ばれてきた原油は、まず巨大なタンクに貯蔵されます。製造工程の第一歩として、この原油を「加熱炉(ヒーター)」と呼ばれる装置に送り込み、約350℃の高温で一気に加熱します。熱せられた原油は、液体と蒸気が混ざり合った状態に変化します。この後の「蒸留」という分離工程を効率的に行うために、原油を気化させることがこの工程の重要な役割です。ここから、本格的なガソリン精製の旅が始まります。

工程2 常圧蒸留装置で沸点ごとに分離する

加熱されて蒸気状になった原油は、次に「常圧蒸留装置(トッパー)」という高さ約50mにもなる巨大な塔へと送られます。この塔の中では、物質が液体から気体に変わる温度、つまり「沸点」の違いを利用して、原油に含まれるさまざまな成分を分離します。

ナフサや灯油、軽油などができる仕組み

常圧蒸留装置の内部は、上に行くほど温度が低く、下に行くほど温度が高くなっています。蒸気は塔の中を上昇していく過程で冷やされ、それぞれの成分が沸点に達した場所で液体に戻ります。沸点が低い成分は塔の上部で、沸点が高い成分は下部で液体となって取り出されます。具体的には、塔の上部からはLPガスやガソリンの原料となる「ナフサ」、中部からはジェット燃料や灯油、軽油が、そして下部からは重油やアスファルトといった成分が分離されます。このプロセスは「分留」と呼ばれ、石油精製の基本となる非常に重要な工程です。

ガソリンはこの時点ではまだ生まれない

この常圧蒸留によって得られるナフサは、「粗(そ)ガソリン」とも呼ばれますが、このままでは自動車の燃料として使用することはできません。その理由は、エンジン内で異常燃焼(ノッキング)を引き起こしやすく、性能を十分に発揮できないからです。自動車用ガソリンとして求められる高い品質を満たすためには、さらに品質を向上させるための次の工程が必要不可欠となります。

工程3 ナフサを改質してガソリンの品質を高める

工程2で分離されたナフサや重油を、より価値の高いガソリンに変えるのがこの「改質」と「分解」の工程です。需要の高いガソリンを効率的に生産するための、製油所の心臓部とも言える重要なプロセスです。

オクタン価を上げる接触改質装置

ナフサは「接触改質装置(リフォーマー)」という設備に送られます。ここでは、白金などを含んだ触媒を使い、高温・高圧の状態でナフサの分子構造を変化させます。この処理によって、エンジンのノッキングの起こしにくさを示す指標である「オクタン価」が大幅に向上します。オクタン価の高いガソリンは、エンジンの性能を最大限に引き出し、スムーズな走行を実現するために欠かせません。

重油を分解してガソリンを増やす

一方で、蒸留で得られた重油も無駄にはしません。「流動接触分解装置(FCC)」などの設備を使い、価値の低い重油に熱と圧力を加えて分子を分解し、ガソリンや軽油といった、より市場価値の高い石油製品に転換します。この分解技術があるおかげで、限られた原油からより多くのガソリンを効率的に生産することが可能になっています。

工程4 環境基準を満たすために硫黄分を取り除く

原油には、環境汚染の原因となる硫黄分が含まれています。この硫黄分が燃焼すると、酸性雨や大気汚染の原因となる硫黄酸化物(SOx)が発生してしまいます。そのため、日本の厳しい環境基準をクリアするために、硫黄分を除去する「水素化脱硫装置」を通します。この装置では、高温・高圧の環境下でガソリン基材に水素を反応させ、硫黄分を硫化水素という物質に変えて取り除きます。この脱硫工程により、環境に配慮したクリーンなガソリンが作られています。

工程5 添加剤を加えて製品ガソリンの完成

これまでの工程を経て精製されたガソリンは「基材ガソリン」と呼ばれます。最終工程として、この基材ガソリンにさまざまな機能を持つ「添加剤」をブレンドします。例えば、エンジンの吸気バルブなどをきれいに保つための清浄剤や、金属部品の錆を防ぐ防錆剤、ガソリンの品質劣化を防ぐ酸化防止剤などが加えられます。これらの添加剤を最適な比率で配合することで、ようやく私たちがガソリンスタンドで購入する「製品ガソリン」が完成するのです。

ハイオクとレギュラーガソリンの作り方の違い

ガソリンスタンドで給油する際、多くの方が「ハイオク」と「レギュラー」のどちらかを選んでいます。この2つのガソリンは、原油から作られるという点では同じですが、最終製品に至るまでの過程で明確な違いが生まれます。基本的な精製工程は共通しているものの、エンジンの性能を最大限に引き出すための「オクタン価」と、付加価値を高める「添加剤」に大きな違いがあります。

「ハイオク」とは「ハイオクタン価ガソリン」の略称です。その名の通り、レギュラーガソリンよりもオクタン価が高く設定されています。このオクタン価の違いと、各石油元売会社が独自に配合する添加剤によって、ハイオクとレギュラーは区別され、それぞれの車両に適した燃料として供給されています。

オクタン価の数値が異なる

ハイオクとレギュラーの最も本質的な違いは、「オクタン価」の数値にあります。オクタン価とは、エンジンの内部で異常燃焼(ノッキング)が起こりにくい性質を示す指標です。この数値が高いほど、ガソリンは自然発火しにくく、ノッキングに対する耐性が高いことを意味します。

日本のJIS規格(日本産業規格)では、レギュラーガソリンはオクタン価89.0以上、ハイオクガソリンは96.0以上と定められています。実際には、石油元売各社は品質に余裕を持たせており、市場で販売されているレギュラーは90程度、ハイオクは100程度のオクタン価を持つのが一般的です。

このオクタン価は、ガソリンの基となる成分の配合比率(ブレンディング)によって調整されます。前の工程で解説した接触改質装置などで作られるオクタン価の高い「改質ガソリン」や、その他の高オクタン価基材を、レギュラーガソリンよりも多く配合することで、ハイオクガソリンの高いオクタン価が実現されるのです。高性能エンジンや輸入車などは、高い圧縮比に対応するために、このオクタン価の高いハイオクガソリンの使用が推奨されています。

添加剤の種類や量が異なる

オクタン価に加えて、ガソリンの性能をさらに向上させるために加えられる「添加剤」にも違いがあります。レギュラーガソリンにも酸化防止剤などの基本的な添加剤は含まれていますが、ハイオクガソリンには各社の技術が結集された、より高性能で多機能な添加剤が独自にブレンドされています。

代表的なものに「清浄剤(洗浄剤)」があります。この清浄剤は、エンジン内部の吸気バルブや燃料噴射装置(インジェクター)、燃焼室などに付着する汚れ(カーボンデポジット)を洗浄し、除去する効果があります。エンジン内部をクリーンに保つことで、新車時の走行性能を維持し、燃費の悪化を防ぐことにつながります。ENEOSの「V-Power」や出光興産の「スーパーゼアス」といったブランドで知られるハイオクガソリンは、こうした独自の清浄剤を配合しているのが特徴です。

その他にも、エンジン内部の金属部品の摩擦を低減させる「摩擦調整剤」などが加えられている場合もあります。これらの付加価値の高い添加剤が、レギュラーガソリンとの価格差を生む理由の一つとなっており、単にオクタン価が高いだけでなく、エンジンを保護し、性能を維持するための様々な機能が備わっているのがハイオクガソリンなのです。

日本のガソリンは製油所で作られている

私たちが日常的に利用しているガソリンは、海外から輸入された原油を原料として、日本国内にある「製油所(せいゆじょ)」で作られています。製油所とは、原油を精製してガソリンや灯油、軽油、重油といった様々な石油製品を生産する巨大な工場のことです。この記事で解説してきた一連の複雑な精製工程は、すべてこの製油所内で行われています。

日本の製油所の多くは、巨大な原油タンカーが接岸しやすい港を持つ臨海部に建設されています。これは、海上輸送で運ばれてきた原油を効率的に受け入れ、精製した製品をタンカーやタンクローリーで全国の消費地へスムーズに出荷するための合理的な立地です。製油所は、加熱炉や蒸留塔、巨大な貯蔵タンクなどがパイプラインで結ばれた「石油コンビナート」と呼ばれる大規模な工業地帯の中核をなしており、日本のエネルギー供給を支える非常に重要な役割を担っています。

代表的な石油元売会社 ENEOSや出光興産

日本国内の製油所は、主に「石油元売会社(せきゆもとおりがいしゃ)」と呼ばれる企業によって運営されています。私たちが普段利用するガソリンスタンドのブランドは、これらの石油元売会社が展開しているものです。代表的な企業としては、国内最大手の「ENEOS(エネオス)」、そして「出光興産(いでみつこうさん)」、「コスモ石油」などが挙げられます。

これらの企業は、全国各地に製油所のネットワークを持ち、それぞれの拠点で原油の精製を行っています。例えば、ENEOSは根岸製油所(神奈川県)や水島製油所(岡山県)、出光興産は千葉事業所(千葉県)や北海道製油所(北海道)など、主要な工業地帯に大規模な製油所を構えています。各社は、長年培ってきた独自の技術を用いて、厳しい品質基準や環境基準をクリアした高品質なガソリンを安定的に生産・供給しています。私たちが安心して車に給油できるのは、こうした国内の製油所と、それを運営する石油元売会社の存在があるからなのです。

まとめ

この記事では、ガソリンが原油からどのように作られるのか、5つの精製工程を追って解説しました。ガソリンは、輸入された原油を単に沸点の違いで分けるだけでなく、ナフサを「改質」してオクタン価を高め、環境基準を満たすために硫黄分を取り除くなど、非常に複雑で高度なプロセスを経て生み出されています。

私たちが普段利用するレギュラーとハイオクの違いも、この製造工程におけるオクタン価の調整や添加剤の配合によって生まれます。ENEOSや出光興産といった国内の製油所では、こうした最先端の技術を駆使して、私たちのカーライフに不可欠なガソリンを安定的に供給しているのです。

自動車の電動化が進む未来においても、ガソリンは当面の間、社会を支える重要なエネルギーであり続けるでしょう。ガソリンの作り方を知ることは、エネルギー資源の大切さや、環境への配慮がいかに重要であるかを再認識するきっかけとなるはずです。