KANTO Industrial College

EV・AI時代に「自動車整備士」をどう見る?アンケートから見えた進路観と本音

電気自動車(EV)や自動運転など、クルマの技術が大きく変わりつつある今、「自動車整備士」という仕事も、従来のイメージから大きく変化しています。
では実際に、中学生・高校生のお子さまを持つ保護者の方々は、自動車整備士の仕事や将来性をどう見ているのでしょうか。

今回は、中学1年生〜高校3年生の保護者を対象に行ったアンケート結果から、

  • 車・自動車技術への興味
  • EV・自動運転など次世代車への理解度
  • 自動車整備士のイメージ・将来性
  • 進路として感じる魅力・不安
  • 学校に求めるポイント

を整理し、保護者のリアルな目線を紹介していきます。

お子さまの学年分布について

本アンケートは、中学1年生から高校3年生までのお子さまを持つ保護者を対象に実施しました。
回答いただいた保護者の方が持つお子さまの学年は、中学生・高校生の各学年に分布しており、その内訳はグラフのとおりです。

子どものクルマ・自動車技術への興味は?

Q2では、保護者の方に対し、お子さまが「車」や「自動車技術」にどの程度興味を持っているかを5段階で尋ねました。

結果を見ると、「とても興味がある」は8.2%、「興味がある」は17.3%にとどまる一方で、「少し興味がある」(30.0%)、「あまり興味がない」(35.5%)が全体の大きな割合を占めています。

また、「全く興味がない」と回答した保護者は9.1%で、極端な無関心層は少数派と言えます。

全体として、強い関心が集中する形ではなく、関心の度合いが中間領域に広く分布している点が特徴的です。車や自動車技術は、特定の層だけに強く刺さるテーマというよりも、日常的には接しているものの、明確な興味として意識されにくい分野であることが、回答の分布から読み取れます。

EV・自動運転など“次世代車”の認知度について

Q3では、EV(電気自動車)やAI自動運転などの次世代車について、どの程度理解しているかを保護者に尋ねました。

結果を見ると最も厚いのは、「ある程度知っている」(40.0%)と「名前は聞いたことがある」(32.7%)の層で、全体の7割以上を占めています。一方で、「よく知っている」は1割未満にとどまっており、知識が深い層は限定的です。

この分布から読み取れるのは、次世代車が“新しい技術”として広く認知されてはいるものの、その中身まで踏み込んで理解されている段階には至っていないという点です。EVや自動運転という言葉は日常的に目にする機会が増えていますが、仕組みや技術的な違い、将来像までは共有されていない状況にあると言えます。

次世代車は、未知の存在というよりも、「知っているつもり」で止まっているテーマとして社会に浸透していることが、この結果から浮かび上がります。

自動車整備士の将来性について

Q4では、EV化やAI診断の普及を踏まえ、自動車整備士の将来性についてどのように感じているかを保護者に尋ねました。

結果を見ると、「需要がさらに増えると思う」(35.5%)と「専門性は高まるが需要は現状維持」(48.2%)が大半を占めており、整備士という職業そのものが不要になると捉えられてはいないことが分かります。

この分布が示しているのは、仕事量の単純な増減ではなく、整備士に求められる役割が変化していくという認識です。EVやAIの普及によって、従来型の作業が減る可能性は意識されている一方で、その分、専門知識や高度な判断力を必要とする場面が増えるという見方が共有されています。

整備士の将来は「なくなる仕事」ではなく、「中身が変わる仕事」として受け止められている点が、この結果の特徴と言えるでしょう。

自動車整備士のイメージについて

Q5では、現在保護者が抱いている「自動車整備士」のイメージについて、複数回答で尋ねました。

結果を見ると、「専門性が高い」(72.7%)、「体力が必要そう」(57.3%)、「技術革新で難しい職業になりそう」(41.8%)といった回答が多く、整備士が高度な知識と負荷の大きい仕事として認識されていることが分かります。一方で、「収入が安定しそう」(20.0%)や「将来性がある」(15.5%)といった評価は限定的にとどまっています。

この分布が示しているのは、「仕事としての難しさ」や「求められるレベルの高さ」は強く認識されている一方で、それに見合う将来像やリターンが十分にイメージされていないという構造です。専門職であることは理解されていても、それが魅力や憧れに転換されていない点が特徴的と言えるでしょう。

自動車整備士は、「大変そうだが価値が分かりにくい仕事」として捉えられている実態が、この結果から浮かび上がります。

今後の整備士に特に必要だと思うスキルは?

Q6では、EV化やAI診断の進展を踏まえ、今後の自動車整備士に特に必要だと思われるスキルについて、複数回答で尋ねました。

回答結果を見ると、「電気・電子の知識」(81.8%)、「AI・自動運転技術の理解」(72.7%)が上位を占めており、従来の機械整備よりも、電気・ソフトウェア領域への期待が強く表れています。一方で、「従来のエンジン整備」を挙げた割合は20.0%にとどまり、整備士像が大きくシフトしている様子がうかがえます。

この分布が示しているのは、整備士が「工具を使う職人」から、「電気・電子やシステムを理解し、判断する技術者」へと認識され始めている点です。車両の不具合を感覚ではなく、データやソフトを通じて読み解く力が重視される職業へ変わりつつあることが、保護者のイメージとして共有されていると言えるでしょう。

整備士という進路に、どの程度魅力を感じますか?

Q7では、メーカー認定資格やEV専門資格などによってスキルを可視化しやすい職業である点を前提に、自動車整備士という進路にどの程度魅力を感じるかを保護者に尋ねました。

結果を見ると、「魅力的」(46.4%)が最も多い一方で、「どちらともいえない」(36.4%)も高い割合を占めています。評価が強く肯定・否定に振り切れているというより、判断を保留している層が厚い分布となっています。

この結果が示しているのは、資格によってスキルが証明できる点は理解されているものの、それが進路選択における決定打にはなりきっていないという状況です。専門性や努力の見える化は評価されていながら、その先にある働き方やキャリアの広がりが十分にイメージされていないため、「魅力的だが決めきれない」という認識にとどまっていると考えられます。

整備士という職業は、制度面の強みが伝わっていても、将来像まで結びつけて語られていない点が、評価の伸び切らなさにつながっていると言えるでしょう。

自動車整備士という進路を検討するうえで、不安に感じる点は?

Q8では、自動車整備士という進路を検討するうえで、どのような点に不安を感じるかを保護者に複数回答で尋ねました。

結果を見ると、「労働環境・体力」(62.7%)と「収入面」(51.8%)が突出しており、日々の働き方や生活の安定性に対する不安が最も強く表れています。一方で、「AI・EVの普及によって仕事が減るのではないか」といった将来性への不安(39.1%)も一定数見られますが、技術そのものよりも、現実的な労働条件への懸念の方が優先されている点が特徴的です。

この分布が示しているのは、整備士の仕事がなくなることへの漠然とした不安というより、「続けられるか」「生活として成り立つか」といった実務的・長期的な視点での不安が強いということです。専門性や将来性以前に、働く環境や収入の見通しが見えにくいことが、進路選択のハードルになっている様子が読み取れます。

自動車整備士は、技術職としての価値よりも先に、「働き方のイメージ」が不安材料として立ち上がっている職業であると言えるでしょう。

お子さまが自動車整備士に興味を示した場合、学校に求めたいポイントは何ですか?

Q9では、お子さまが自動車整備士に興味を示した場合、学校に対してどのような点を求めるかを保護者に複数回答で尋ねました。

結果を見ると、「国家資格取得のサポート」(68.2%)、「EV・AIなど最新設備が整っていること」(66.4%)、「就職率の高さ」(60.0%)、「企業と連携した実習の多さ」(54.5%)が上位を占めています。生活面や通学のしやすさ、学校の雰囲気といった項目よりも、スキルの確実性や就職への直結性が強く求められている点が特徴的です。

この分布が示しているのは、保護者が学校に期待している役割が「学ぶ場所」というよりも、「将来の不安を減らすための装置」になっているという点です。Q8で示された収入や労働環境への不安を背景に、資格取得や実践教育、就職実績によって“失敗しにくい進路”を確保したいという意識が強く表れています。

自動車整備士を目指す進路は、興味や憧れだけでは判断されておらず、学校がどこまで将来を具体化できるかが、選択の決定要因になっていると言えるでしょう。

まとめ

今回のアンケートからは、保護者が自動車整備士という職業を「なくなる仕事」とは捉えていない一方で、進路として積極的に選び切れていない実態が浮かび上がりました。EVやAI、自動運転といった次世代車の存在は広く認知されていますが、その理解は表層的にとどまっており、技術の高度化が進んでいることと、仕事の魅力が十分に伝わっているかは別問題として存在しています。

整備士の将来性については、役割が変わりながらも仕事は続くと受け止められている一方、収入や労働環境、体力面といった現実的な不安が強く、進路選択のブレーキになっています。その結果、資格制度や就職実績、実践的な教育環境など、「失敗しにくさ」を学校に求める傾向が顕著に見られました。

この調査結果は、自動車整備士という職業自体の価値が否定されているのではなく、将来像や働き方が具体的に描けていないことが、選択を難しくしていることを示しています。今後は、仕事の中身やキャリアの広がりを現実的かつ分かりやすく伝えることが、進路として選ばれるための鍵になると言えるでしょう。